醗酵・醸造がブームの今、古くから「醸造王国」と呼ばれてきた知多半島への注目度も急上昇中!その歴史をひもとけば、馴染み深い地元の醸造品にも、より深い味わいを感じられるはず。
■船で江戸に運ばれた日本酒
知多半島ではいつごろから酒造りが始まったのでしょうか。昔の酒、と聞いて思い浮かぶのは、毎年2月に大府市の長草天神社で開催される天下の奇祭「どぶろく祭」。その始まりは室町時代とされ、かつては各地でおなじようなどぶろくが作られていたと思われます。
産業として成り立った時期は定かではありませんが、江戸時代初期には半田、亀崎を中心に一〇〇軒以上の蔵があり、早くから酒造りが盛んだったことは間違いありません。現存の蔵で最も長い歴史を持つのは常滑市の盛田。寛文5年(1665)の創業で、ここは愛知県でも最古の蔵元と言われています。
(盛田味の館)
知多半島では、原料の米が豊富だったことに加え、三方を海に囲まれた地形が酒造りを発展させました。一大消費地の江戸へ船で大量に運ぶのに有利だったからです。江戸では知多の酒が「中国酒」(江戸と上方の中間の意味)と呼ばれて人気を博しました。
(左)盛田味の館で見られる古い蔵の図。今も伊勢湾に面しています
(右)小鈴谷の海
■愛知の味を下支えする豆味噌・たまり
知多半島の醸造品では、愛知県民味覚の基本である大豆原料の味噌とたまりの存在も外せません。
知多半島での味噌づくりは江戸時代初期に常滑市大野で始まり、創始者の子孫である宗平利展が製法を惜しみなく指導したことから、江戸時代後期には知多半島全域に広まりました。特に武豊町では、明治時代に入ってから蔵元が急増。武豊港が国際貿易港に指定され、原料の大豆が大量に輸入されるようになったのがきっかけです。商品を輸送する鉄道の開通も後押しになり、最盛期には町内だけでなんと51軒もの蔵元がありました。
武豊町里中周辺に残る大きな木桶で仕込む味噌・たまり蔵
■江戸でもてはやされた画期的な粕酢
知多半島を代表する醸造品といえば、酢も有名です。
酢は、いわば酒どころならではの副次品。日本では古来、米を原料に酢が作られてきましたが、文化元年(1804)に創業した半田の酒造家・中野又左衛門が、酒粕から酢を作ることに成功します。酒と同様に船で江戸に運ばれると、寿司用の酢として大ヒット。これが国内屈指の酢メーカー、ミツカンの出発点となりました。
(左)千石船とも呼ばれる弁才船(べざいせん)で知多半島と江戸を結びました
(右)半田運河は江戸時代にひらかれました
■いくつもの危機を乗り越えて
明治時代に入ると、知多半島の酒に最初の危機が訪れます。
流通網の発展による競争の激化に伴って東京での人気が落ち、さまざまな社会情勢もあいまって生産量が低下してしまったのです。これを乗り越えようと、それぞれ蔵元は品質の向上に力を入れ、また、有志が結集して同業者組合の「豊醸組」を結成するなど、復権を目指しました。
その一方で、日本酒以外にも活路を開こうと、ビールやワインの醸造を手掛ける者も現れます。なかでも、明治時代半ばから戦時中まで製造されたカブトビールは成功例として有名です。「美酒への飽くなき追求」と「新しい事業への果敢な挑戦」というこの地方の気風は、この頃から芽生えていたのです。
その後も、戦時中の製造統制、戦後の量産製法の開発や流通圏の拡大など、時代ごとにさまざまな課題に直面しながらも、蔵元は柔軟に対応してきました。
ところが、昭和後期から平成にかけて第二の危機が業界を襲います。それは、消費者の日本酒離れ。知多半島でも蔵元の廃業が相次ぎ、21世紀を迎える頃には10を切るまでに減ってしまいました。
白老伝統の手造りの特徴が生かされた澤田酒造の本格派、純米吟醸熟成酒「豊醸」。
豊醸組の試験場を構えていたことから銘柄に採用されました。
半田赤レンガ建物
■醸造王国は未来に続く
とはいえ、長い歴史の中で幾多の波乱を乗り越えてきた蔵元は、実にたくましいものです。伝統をベースにしながら、どの蔵元もニーズに応じた新しい商品を次々に開発してきました。それは酢や味噌・たまりも同じです。
昭和の終わりから平成には、蔵元が運営するミュージアムや飲食店が誕生したり、酒蔵開放などのイベントも盛んに行うなど、アピールにも力を入れてきました。ごく最近では、一度は消えてしまった銘酒「敷嶋」が若手醸造家によって再興されたという明るい話題もあります。
意欲的な蔵元たちがこれからも醸造王国を盛り上げ、消費者を楽しませてくれることでしょう。
(左)2021年に復活した伊東の旧蔵ではマルシェも開かれます
(右)博物館酢の里を経てミツカンミュージアムとして新たにスタート
現代に蘇った「煎り酒」。日本酒と梅干しを煮て濾したもので日本古来の調味料。醤油が普及する前の江戸時代初期にあったと言います。料亭で細々と受け継がれていた味が再現されました
中埜酒造 ホームページ
■醸造蔵MAP
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